ジョジョにおける『回転』という概念
※この記事にはジョジョ第6部と第7部の多大なネタバレが含まれています
※完全に筆者の独自解釈、こじつけと自覚した上で書いています
ジョジョの奇妙な冒険は第6部「ストーン・オーシャン」のクライマックスにて、エンリコ・プッチのスタンド「メイド・イン・ヘブン」の時間加速によって終焉と開闢を迎え、新たな世界を拓くことで「一巡」することとなりました。
世界を一巡させることで生きとし生ける全てのものが自身の終わりを体感し、これから自身の身に起こる全ての事象に対して「立ち向う覚悟」をすることが出来るというDIOの理念に則った世界、
いわゆる「天国」の創造を目的としたプッチの理想郷が実現されようとしたわけです。
しかし実際には空条徐倫らの「先に見えない未来へ向かう勇気」を託されたエンポリオ・アルニーニョによって、旧世界において時間加速を開始した時点に達する前にエンリコ・プッチが討たれたため、
世界の一巡は完璧な円ではなく、途中で途切れ、以後は旧世界ともDIOの目指した新世界でもないパラレルワールドの時空に突入してしまいます。
パラレルワールドに突入したジョジョの奇妙な冒険は第7部「スティール・ボール・ラン」へとコマを進め、第6部では2011年が舞台であったが第7部では1890年が舞台となっています。
ちなみに第1部「ファントム・ブラッド」での最終場面、豪華客船での戦いが行われたのは1889年。
つまりDIOが目指した「天国」が完成していれば旧世界において第1部で起こった出来事が新世界でも同じように発生するはずだったのですが、一巡が不完全であったがために、旧世界では存在しなかったスティール・ボール・ランレースが開催されているということになります。
旧世界ではウィルを軸としてマリオ、シーザーと石仮面に翻弄され波紋法を使用する一族であったツェペリ家が、新世界ではネアポリス王国に仕える死刑執行人の一族になっていたり、英国貴族であるジョースター家がジョッキーの家系になっていたりします。
ネアポリス王国には「鉄球」の技術が古くから伝えられており、鉄球を『回転』させることで投擲、波による人の気配の察知、肌の硬質化、空気の密度の変化、生物の反射を促すなど、多種多様な性能を発揮させることが出来ます。
旧世界での「波紋法」のようにスタンド能力ではありませんが、「技術」によってそれと同等の超常な能力を使用することが出来るのです。
これには作者の荒木飛呂彦氏も「波紋や鉄球はスタンドへ近づこうとする技術である(意訳」と記述しています。
第7部には下半身不随の元天才ジョッキー・ジョニィと、鉄球を操る死刑執行人・ジャイロというふたりの主人公が存在します。
ジョニィはジャイロが『回転』させた鉄球に触れた際に、動かないはずの両脚が反射的に反応したことに希望を見出し、ジョニィはジャイロから『回転』の技術を乞います。
ジャイロは主に鉄球を用いてその技術を発揮させていますが、肝心なのは鉄球よりも『回転』であることは、サンドマンのイン・ア・サイレント・ウェイとの戦いなどで描写されている通り。
鉄球はその真球のフォルムで『回転』を120%引き出す手段なのです。
第7部のクライマックス、「聖なる遺体」を全て揃えて所有者となったファニー・ヴァレンタインは遺体から差す光のなかに潜み、吉なるものを受け入れ、邪なるものは何処かへ飛ばしてしまう完全無欠なスタンド「D4C ラブトレイン」を発動させます。
光のなかに身を潜めている限り、ヴァレンタインへの干渉は邪とみなされた場合、全てが無効化されてしまいます。
ジャイロはこれを攻略するためにかつてネアポリス王国で使用されていた馬上で戦うための「騎士の回転」を試すことにします。
現在ツェペリ家では医療と死刑執行に回転を用いているため廃れてしまっている技術です。しかし甲冑を纏った兵士が戦う際に使う回転技術にはこれまでの『回転』とは一線を画す力が込められていると考えました。
しかしジャイロが投擲した鉄球は一瞬だけラブトレインの光に接触してしまったため、光に潜むヴァレンタインに届きはしたものの「騎士の回転」の本領を発揮できないままジャイロは破れ、そして散ります。
鉄球が光に触れた時、そのかすかに触れた一部が邪なるものと見做され、ジャイロの鉄球は真球ではなく楕円球となってしまったからです。
そしてジャイロの意志を受け継いだジョニィによって完全なる「騎士の回転」が発動し、 結果的に「騎士の回転」はラブトレインの光という次元の壁を凌駕し、ジョジョ史上でも類を見ない超火力と超常現象を発生させ、ヴァレンタインはこれに屈したのです。
ヴァレンタインの元のスタンド「D4C」は隣り合わせた平行世界間を自在に行き来する能力です。この世界には無数の隣り合わせた「よく似た世界」が並んでおり、基本的には干渉することは出来ません。
ただひとりD4Cを有したヴァレンタインのみが幾重もの世界を移動でき、またその世界の自分自身とコンタクトを取ることが出来ます。
D4Cの能力によってヴァレンタイン以外の者が隣の世界に紛れ込んだ場合、そちらの世界にいる「自分自身」と出会い、触れ合った瞬間にはじけ飛んで消滅します。
ドッペルゲンガーに出会ったら死ぬ、そういうことです。
D4Cというスタンドそのものは各並行世界に存在するヴァレンタインの人数分だけ存在します。隣のヴァレンタインも、その隣のヴァレンタインも、D4Cを持ったスタンド使いです。
しかし「平行世界間の移動」という能力を有したD4Cは基本世界、つまり第7部作中の舞台となっている世界に存在するD4Cただ一体のみです。
これは荒木飛呂彦氏によるとこの基本となるD4Cにはある種の重力のようなものがかかっており、その重力が平行世界間の移動に耐えうる役割になっているとのこと。
また、そのD4Cの能力の源となっている重力のようなものを突破しうるものも、また重力のようなものである、としています。
「騎士の回転」はD4Cを破りました。
つまり『回転』は新たな「重力」を生み出し、D4Cを制したことになります。
ツェペリ家における『回転』は自然のスケール「黄金長方形」を基準として回すことで自然界に存在する無限のエネルギーを発生させる仕組みになっています。
自然に敬意を払う、その姿勢、精神が「黄金の回転」を生み出すことへ繋がるのです。
黄金長方形、つまり「黄金比」と呼ばれるものは現実にも存在し、多くの美術作品などに用いられている技術であると言われています。
つまりひとが美しいと感じる形が「黄金比」になるわけです。
第7部での「黄金長方形」は現実における「黄金比」とは若干比率の違いがあるようですが、概ね同じようなものだと思えばいいと思います。
「黄金長方形」のスケールに合わせて『鉄球』を回すことで「黄金の回転」が発生するわけですが、私が感じたのは、これまでの「面状の回転」から奥行きのある「三次元の回転」に昇華したような印象を持ちました。
ジョニィは聖人の遺体から「タスク」という指の爪を弾丸のように発射するスタンドを発現させていますが、この爪弾を撃つ際にジャイロから教わった『回転』の技術を用いています。
ジョニィが爪を回転させる時、爪は指の上で円盤状に回っていました。しかしジョニィが「黄金の回転」を習得してからは指を軸としてその周りを周回するような軌道で回るように変化しました。
話が前後してしまいますが、
この「黄金の回転」を馬上で使用することで「騎士の回転」への進化します。
(普通の回転→黄金の回転→騎士の回転)
「騎士の回転」をジャイロは「無限回転エネルギー」と称しました。
「騎士の回転」にはD4Cに宿った重力を突き抜ける、次元の壁を凌駕する重力が宿ります。
さらに、第7部最終盤に颯爽と現れるスタンド「THE WORLD」を持つディエゴ・ブランドーとの死闘では、
この「騎士の回転」を帯びたジョニィの爪弾がTHE WORLDによる停止時間内でも動き、その『回転』が止まることはなかったという現象まで起こしています。
平面状の回転から三次元的な「黄金の回転」へ、
そして更に時間の壁すら超える「四次元の回転」へ。
『回転』には「重力」が宿り、「時間」を超越します。
ここで話を第6部まで戻しましょう。
第6部の中盤でエンリコ・プッチはDIOの骨から生まれた「緑色の赤ん坊」と融合することでスタンド「C-MOON」を発現させます。
これは冒頭で触れた天国創造のための「メイド・イン・ヘブン」への布石となる、いわば繋ぎのスタンドではありますが、重要なファクターです。
C-MOONは発動中に本体であるプッチを中心とした重力場を半径2km圏内に発生させる能力です。これは球状に展開されるのでプッチの頭上に行こうものなら「上に落ちる」という現象が起こります。
C-MOONには触ったものを裏返すという能力もあり、殴った対象はべきべきと裏返って破壊されます。人体も内側が表に出てきて破壊されます。
空条徐倫は「ストーン・フリー」の身体を糸状にする能力によってC-MOONに打たれた部分を裏表のない「メビウスの輪」の形に変換させることでこの裏返しを回避しました。
C-MOONを発動させつつ「北緯28度24分・西経80度36分」の位置へ行き、「新月」の時を待つことでC-MOONは「メイド・イン・ヘブン」へと進化し、時間の加速が開始します。
この場合、新月の日に上記の地点にかかる「重力」をプッチが身に受けることが重要であるため、その日その場所でなくとも、同じだけの「重力」を感じる地点へプッチが移動すればそれで進化に至ることとなります。
つまり進化に必要なのは「重力」である、と分かります。
「重力」によって進化したスタンドが得たものが「時間」の加速。
スタンド「メイド・イン・ヘブン」は1分が1秒に、1時間が1秒に、1日が1秒にとどんどんどんどん時間が無限に加速していく現象を引き起こします。
時間の加速が高まると朝と夜の区別すらなくなり、太陽の軌道が目に見えるまでになります。太陽が帯状の軌道を空に描きます。
極限まで加速した世界は終りを迎え、特異点を超えて新世界が幕を開けます。
これを俗に「一巡」と称します。
しかし前述の通り、エンポリオ・アルニーニョの行動によって正確な「一巡」とはならず、「天国」は完成しませんでした。
円を描くはずだった時間の軌道はある一点から綻びを見せ、時の輪は真円ではなくなりました。
ジョジョ第6部と第7部の繋がりは正直いまも議論が分かれている部分もありますが、荒木飛呂彦氏の談によると延長線上にあるとしていると考えることも出来ます。
後付けなのでまったく別物の、ジョジョ1~6部までの要素を含んだ新パートであるという解釈をなさる方も多数いますが。
「時間」を『楕円回転』させたことで突入したパラレルワールド時空において、真円を描く「波紋法」の代わりに登場した「鉄球」、そしてその鉄球の「技術」が新たな「重力」を獲得し、次元の壁を超えて「時間」を凌駕する。
仮にエンポリオが時間の加速を止めた瞬間から綻んだ時間の流れが、そのまま弧を描きながら進んだ場合、その軌道は竜巻状になってずっと進み続けるのではないでしょうか。
旧世界が終わった「特異点」を出発地点とし、そのまま竜巻状の三次元回転を続けているのだとしたら、それがそのまま「世界」のスケールとして「黄金比」になっているとしたら・・・一巡した先の新しい第7部以降の世界で『回転』という技術が生まれたことにも意味があるのでは・・・?(これは無理がある
完全なる円になれなかった世界で完全なる円がこの世の理すら超える力を有するという皮肉めいたものを感じます。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
とかっていうわけの分からないことを考えるのって楽しいですよね。
漫画とか読んで「ここはこうなんじゃない?」「これはきっとこういうことだ」って自己解釈の範囲でいいからとにかく腑に落ちるように「納得」させるのって大切だと思うんです。
提示されたものだけを受け取るのもそれはそれで正しいとは思いますが、こじつけでも何でも自己流の解釈を持っている人はどんなテーマであっても面白い意見を話してくれるのでぼくは好きです。
そんな人に、ぼくもなりたい。
ただジョジョの場合に限らず、主流な考察を勝手に公式認定して語ってくる人もいるので注意しないといけません。
この記事は完全に空想ですので、悪しからず。でもちょっと信じてる。